2023年4月8日土曜日

初代TTはスポーツカーなのか

 こんにちは。スポーツカー過激派です。
まずは初代TTのデザイナーの話から。

初代TTのデザインはポルシェ在籍時に次期911案として描かれ却下されたものであり、そのクレイモデルをコツコツと弄っていたらアウディで評価されて市販化されたストーリーがありました。公式にはそういった情報は無いので、まずはこの辺りの情報を整理しましょう。
ミアータの販売台数見てボクスター作って、TTも出来たって話は今回は重要じゃないので飛ばします。

トーマス・フリーマンは1983年から1987年はポルシェ、一旦講師経験を挟み、1991年から1999年までVW Americaに在籍していました。
ポルシェ在籍時は 959, 964, 993辺りのデザインに参画したようです。959のディテールを殆どデザインしたという話があるのですが、ポルシェ在籍時に明確なクレジットが残るような仕事は無いようです。もし、当時既にこのデザインがあったのであれば、年代的には993辺りのポルシェが空冷から水冷へ変革しようとしていた時期の次期デザインを模索していた辺りで911のデザインとして提案されたと考えて良さそうです。
VW America在籍中、ジェイ・メイズと近い位置に居たようで、彼のデザインしたAudi Avus quattroのデザインをベースにペーター・シュライヤーとTTのデザインを完成させたとされています。そういったデザインの変遷はスケッチにも現れており、1994年にデザイン開始、1995年にコンセプトカー発表、1998年から販売開始という流れを経たのは周知の通りです。


こういった流れを考えると、Mk1のみ妙にトランク部が長いことや、TTを”着る”、”成熟”、”low drug”、"スポーツ要素"といったキーワードが見えてきます。この辺りは911との類似性が見られるポイントです。明らかにスポーツカーとしてデザインされているわけです。
また、初代TTのコンセプトには"戦前アウトユニオン時代のグランプリカーへのオマージュ"が公式に含まれているとされています。他にもアメリカンホットロッドやSR-71などの軍用機のデザインを念頭に置いて制作されているとか…。

個人的に、初期のコンセプトカー、初期の初代TTは明確にスポーツカーとしてデザインされていると思っています。ステアリングのSマーク、当時のAudi Sportのロゴが入ったステアリングはRS2やS4など、AudiSportが関与したスポーツモデルだというアピールだと思っています。
というか、発表時には”真のスポーツカー”、ピエヒ博士が”サラブレッド・スポーツ”、って言ってるのでスポーツカーです( ー`дー´)キリッ
*ちなみにフリーマンはロードスター推しだったようですが、クーペモデルはピエヒ博士がこれが欲しいと言った為市販化されたようです。VR6といい、この車はフェルディナンド・ピエヒの息吹を強く感じられる所が最高です。
*当時、ピエヒ博士はVR6ファミリーとして、上からW12ミッドシップ(Audi Avus quattro)、VR6ミッドシップ(Quattro Spyder Concept)、フロントVR6(TTS Roadster Concept)とVR6モジュールでスポーツモデルを作りたかったようです。これは後にヴェイロンが初代TTと類似したデザインで出た事とも関係がありそうです。
*R8はAudi RosemeyerからAudi Le Mans quattroという流れを組んでいるとする文もありますが、Audi RosemeyerはR8とは根本的に違うような気がしています。W16を積んでいるという所とフロントフェイスを見る限り、TTのデザインをベースとしたヴェイロンのスタディモデルだと思っています。


この辺りで”スポーツカー”というのは競技車を公道用に仕立て直したものであって、公道用に作られた車は全てスポーツカーでは無い。という古い発想を持ち込むと議論が煩雑にはなりますが、とにかく最近の定義である”スポーツドライビングを楽しむ”という観点では立派なスポーツカーであると言えると思います。
とはいえ、僕はスポーツカー過激派なのでナンチャッテスポーツカーだと連呼しています。

で、そんな初代TTですが、Ur-quattro以来、フルタイム4WD特有のステアリングフィールの悪さを叩かれ続けてきたAudiが久々のスポーツカーとして設計販売したわけです。同時代の初代ボクスターよりは77mm長いものの、ベースとなったゴルフ4のホイールベースを89mm切り詰め、量産車のドライブトレインを流用することでステアフィールの良い安価な1.8Lターボを積んだFFスポーツカーを販売したわけです。更に、アウディはquattroであるべきだという呪縛を糧にすることで、FFと直結4駆を往復するハルデックスというシステムを採用します。
初期のTTのレビューを今読むと”とにかく良く曲がる”、”回頭性が良い”という、4WDへの曲がらないという悪評を消す、オーバーステア特性を評価するレビューが多いように感じます。ただ、高速域でオーバーステア特性が悪化するという話はワルター・ロールにも指摘されています。当時の比較対象は初代ボクスターとZ3やSLKでしたが、Z3やSLKでは相手にならず、ボクスターイーターとして取り上げられているくらいの動力性能でした。
AudiAGによる当時の反論では180馬力クワトロモデルを持ってきて、ミケーレ・アルボレートに乗らせてスタビリティーOKとしているようですが、180馬力FFモデルと225馬力4WDモデルが酷かったようです。当時、大径タービンとインタークーラーを搭載した225馬力モデルと小型のタービンを搭載した180馬力の2つのエンジンがあり、FFモデルは180馬力仕様でした。これは100kg以上軽く安価で速いという評価だったのが裏目に出ました。225馬力モデルは180馬力モデルよりも最高速が約25km/h速く、その領域では4WDモデルも挙動が怪しかったようです。ただ、180馬力FFモデルはリアサスがゴルフのトーションビームになっており、そもそもスポーツカーでは無いという事実も忘れてはいけないポイントです。もうね、そんなんでアウトバーン踏み散らかしてスピンするのは当たり前。🐒でもわかる。(多分この記事で最も重要な1文です笑)

1999年後半から2000年前半にかけ、リアスポイラー+ESPの装着と前後ダンパー+前後スタビ+フロントロアアーム変更というリコールを出しつつ、アウディはリアルスポーツカー街道を爆走しようとします。フロントダンパーは縮み側を硬く伸び側を柔らかくし、フロントスタビを1mm太く、リアスタビを1mm細くしたようです。サスペンションに詳しい🐒に聞いてみたところ以下のコメントを貰いました。
・元々のセッティングは定常円旋回時にリアが先に滑る+リアリフトで更に滑りやすくなっっている
・多分初代TTの最初のセットアップはかなりアンダーステアが弱く、積極的に向き変えてアクセル踏んでいく風にしていたのではないか
・フロント固めてリア柔らかくっていうのは、定常円旋回時にフロントが先に滑るようにするため(フロントの限界を下げた)
・仮想的の初代ボクスターもリアリフトに悩んでいたはず
セットアップを客観的に見る限り、わかっている人は乗れるリアルスポーツカーとしてセッティングされていたように思います。

更に、2000年にはRS4の2.7Lツインターボエンジンを搭載したプロトタイプを作り、2001年に公開しています。また、2000年から2003年にかけて、Abt-Audi TT-R DTMを制作しDTMに参戦します。DTMは当時、BMW不在だった為、CLKやAstraクーペと戦っていました。Abt-Audi TT-R DTMはBMWエンジンを搭載してスタートしましたが、途中からAudiV8を搭載しています。ただ、このTT-Rはレギュレーションの関係でFRだったというのも付け加えておくべき情報かもしれません。

そして2003年にはこのスポーツカー路線の集大成()として3.2quattroが追加されます。この頃のアウディは既にTTをリアルスポーツカーとして売る事を諦め、スペシャリティーカーとして売ろうとしています。必死に空力性能を向上させ、RS4のブレーキまで入れ、フロントサスペンション取付部さえ手を入れたにも関わらず、ステアリングのSバッジが消えました。S-lineって何やねん。最高速は250km/h出る事になっていますが、実測Cd値0.35では正直夢の又夢です。僕も試してみましたが、200km/hが遠いのナンノ。
で、Mk2、Mk3とCd値は0.32前後まで改善されたようですが、圧倒的にスタビリティーが向上しています。僕はMk3TTRSと2.0FFモデルしか乗っていませんが、とにかく曲がるのに曲がりすぎても回らない。基本設計というよりは電子制御の進化なのでしょうが、4WDのネガをなるだけ潰してよく曲がり、ドカンと加速した時だけ4WDのメリットを享受出来るという明確な方向性を感じます。これは初代TTでもレベルは違うものの同じであり、素直なステアリングフィールとアクセルを踏んだ時の盤石の安定感というのが同居している非常に稀有な存在だと思っています。またベースになっているゴルフと比べると明らかに重心が低く、スペシャル感を味わえる所が大変気に入っています。


で、最後に話を戻しますが、TTはスポーツカーになりたかったのに、スポーツカーとして生まれていないからなれなかったナンチャッテスポーツカーです。
こう書くと、ナンチャッテスポーツカーとして卑下するなんて!というお叱りをすぐ受けますが、スポーツカーって乗ったコトあります?あんなもんとても公道では乗れたもんじゃないですよ。というのが私の解答です。ナンチャッテスポーツカーの懐の深さ、これがラリーカー的使い方をすると生きてくるわけです。リアルナンチャッテスポーツカー、最高です。僕は自信を持って踏んでいけます。


TT、本当に良い車です。2台あると満足度が猛烈に高い。

1 件のコメント:

  1. "定常円旋回時にリアが先に滑る"
    こんな間違った言い方はしていないはずです笑

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