2022年6月20日月曜日

平成のカウンタック;Honda S660 β

 減点法で生きている人には全くもって向いていない車です。
この車が楽しめるのはキッズと3周くらい回った人なのかな?

オンライン抽選で540分の1の確率をくぐり抜けて最後のS660を当てたヤツが居たんですね。本人よりも先にTwitterでお祭りになっていて非常に面白かったのですが、当選した本人は夜しか気が付かなかったというのが何ともシュールでした。

で、S660ですが、冒頭に書いた通り、減点法で見ていくと非常に厳しい車です。コンセプトは間違いなく良く、パッケージの大筋は大正解だと思います。ただ、僕はドアの開口量が足りない(改造している人が結構居るようです)点が非常に気になりました。この点に関しては本当にありえない造りになっており非常に乗降性が悪く、ターゲット年齢層が若いから良いのでしょうが、(お金の余っている)高齢者は全く乗れない車になっています。

誰にでもわかるような点を挙げていくと
・内装のデザインに対してハンドル径が大きい
 *他車からの流用なのでしょうが、直径をあと1cm小さくすればデザインも実用性(乗降性)も良くなるはずです。
 *専用設計らしい。マジか。
・エンジンの振動量に対して、バックミラーの強度が足りず異常に振動する
 *バックカメラのモニターを兼ねているミラーがついていましたが、視認することが出来ないくらい振動します
・ラインオフしたばかりの新車であることを知らないと事故車か?と思うレベルの溶接とチリ
 *軽トラ工場で作っているようですが、流石にこのレベルの左右差とチリの合って無さはヤバいです。国産の品質が良いというのは今や過去の話ですね。

この3点に関しては”車”という最低限の枠組みで考えた時に非常に大きな問題だと感じました。ハンドル径と多少のチリの合わなさはさておき、バックミラーのステー強度が足りないというのはちょっとありえないコストカットだと思います。


"自称"わかっている側の人間としては、
・純正でADVAN NEOVAを履かせるな
 *タイヤに頼ったコンセプトというのは実際どうなのかと思います。が、タイヤに頼らないと辻褄が合わないのも理解出来ます。
・足回りの剛性が絶対的に不足している
 *タイヤのグリップ力に完全に負けています。曖昧な入力をしているとクリッピングポイント近辺でフラフラと蛇行する奇妙な動きが出るのは剛性不足なのか電子制御なのか…。オーナーは電子制御だと言っているのですが、色々な部分から来る総合的な動きだと思います
・あと一歩が多すぎる
 *コストカットが重要なことは分かりますが、細かい部分のコストカットの積み重ねで工業製品のクオリティが下がっていくという国産車あるあるな感じになっています。こういった趣味性の高いクルマは定価を10万円上げても細部のクオリティを上げたほうが良いと思いますが、多分そういう層は想定している購買者では無いのかもしれません


ただ、ここまで書いておいて思うのが、この車はそういう車なのか?というところでしょう。

S660はそういう車では無いと思うのです。この車は軽自動車規格で楽しめるカウンタックであり、スーパーカー枠の車が常識では考えられないレベルの価格で購入かつ長期的な維持が出来るというコンセプトでしょう。
ドアヒンジの造りなど細部を見るとコンセプトをぶち上げ、実際に設計した人間の浅さが見えますが、70年代のスーパーカーだと考えると納得出来ます。総合的に見ると、この車は70年代スーパーカーだというのが僕の結論です。


とはいえ、動力性能はかなりのものです。もちろん出力(加速)的には64馬力の軽規格を超えるものでは無いのですが、NEOVAを使い切った時には1Gを軽く超えるコーナリングフォースが手に入るようです。ただ、このタイヤやコーナリング性能が70年代スーパーカーという雰囲気を破壊してしまい、2020年代ハイパーカーのような特殊性が生まれてきてしまいます。軽自動車としてのボディ骨格の貧弱さは事故ったら即死亡事故に繋がる危うさを生み出します。ハイパーカーは速すぎて事故ったら死にます。経路は違いますが、似たようなゴールに向かっているようなイメージです。
この車の動力性能はユーロファイター・タイフーンって所ですね。UNSTABLEな乗り物を作って、電子制御で安定させるという思想が見えます。



と、ここまで色々と書いてきていますが、非常に面白い車です。純粋に乗り物が好きな人には非常に受けが良いと思います。アイポイントは本当に低く、マクラーレンやロータスのような雰囲気があります。サイドミラーの形状は正にランボルギーニ、シフトのスムーズさとブレーキのフィーリングはポルシェと、各社の車の良いところをセンスよくまとめてきています。
また、ブーストメーターと燃費メーターがスイッチで切り替えられるギミックや、内装が90年代の車のようにドライバー主体になっている所などはこの時代とても評価出来るポイントだと思います。
燃費も20km/Lを超え、自動車税が安く駐車場費用も安いという軽自動車規格のメリットが最大限使えるという所まで考えるとヒジョーーーーにアリだと思うのです。
スコスコ入るシフト、どこから踏んでも64馬力が出てくるエンジン、低いアイポイント、低い維持費、優秀な電子制御、この組み合わせは最高です。理論的な話は全てぶっ飛ぶくらい面白い車です。




と、ふわっとした内容を書いたのですが、ふわっとし過ぎていて面白くないというツッコミを受けたのでオーナーの不満点に対する僕なりの解答を書いておこうと思います。とはいえ、金を出して買った人間の発言が全てであり、ちょい乗りしてしたり顔でコメントしている人間の発言は便所の落書きみたいなもんですのであまり真剣に受け取らないでください。
オーナーはブレーキタッチは良いがそれ以外は全てゴミだと仰っていました。また、この内容に関しての反論がコメントに記載されているので是非チェックしてみてください。

①妙にフラフラする。
電子制御が変+圧倒的剛性不足だという話なのですが、根本的に乗り方の問題だと思います。確かに乗用車や商用車は丁寧な操作で過渡領域を長く取れば長く取るほどスムーズに動きます。これはサスペンションのダンパーが安物で戻ってこなかったり、急激な変動を与えるとボディのヨレが大きく発現するからです。ただ、最近の車はそういった運転をするには足廻りが硬すぎたりブレーキが効きすぎたりするので、必ずしもそういった運転方法がマッチしているとは言えないと思っています。S660は脚が伸びる速度に合わせた操作を行ってやれば違和感なく運転出来るのでこれに関しては評価方法が間違っているのだと思っています。世代と用途が違う。ドライバーのOSをアップデートして対応車種を増やしてこい。

②アクセルペダルの動きとスロットルが連動していない
エンジンとミッションのシャクリ防止のプログラムが気持ち悪いという話なのですが、むしろ同調してエンジンとミッションが一体となって動くほうが気持ち悪いです。TTRSのダイナミックモードが正にそんな感じの制御になっていますが、ほんのちょっとのアクセルオフでも同乗者の首が振られます。違和感を感じない程度にシャクリ防止の意味で遅延させるのが正しいのだと思いますが、最近のリーンバーンターボエンジンかつ3気筒という制約に加え、直噴エンジンでは無いS660は厳しい所だと思います。近年の直噴ミラーサイクルターボのレスポンスの良さに慣れているから違和感を感じるだけで、昔のポート噴射のエンジンの感覚で乗るとそこまでの違和感は感じません。合わせていけるくらいのタイムラグなので乗り込んで慣れるしか無いと思います。合わせられないのは下手くそだからです。身体感覚を再起動してこい。

③異常に嫌がらせをされる
割り込みをされたり、入れて貰えないという話なのですが、そもそも論として小さいクルマは遠くにあるような錯覚を生み、大きいクルマは近くにあるような錯覚を生みます。小さいクルマだからしょうがないでしょう。また、S660を近所で運転させて貰った感覚だと周りをよく見て、周りファーストな運転を心がけて周囲の流れの中で走れば嫌がらせをされた感覚は感じませんでした。
これに関しては多分、周りを押しのけるような運転をしており、でもパワーが無いから入りきれず/加速しきれず周囲の車との距離が近くなり、結果的に煽られたような感覚を感じるのだと思います。運転中イライラする人はベンテイガとかカリナンに乗るべきだと思うんですよね。下手くそでも周りが気を使ってくれると思います。
S660のような車は周りよりも2つも3つも上の段階で運転出来るような人向きだというのは強く感じました。煽り煽られというのはコミュニケーションと一緒で周囲の車との無言のキャッチボールが出来るかどうかという点に尽きます。嫌がらせをされる理由は嫌がらせをするからです。結局の所、周囲の状況を適切に判断出来ていないんだと思います。コミュニケーション用のチップを追加で積んでこい。

④BEATはもっと違和感無く乗れた。金がかかっていた。
①②の点を振り返っての感想でした。いやそりゃね、BEATって1991~1996年に販売された車であり、厳しく辛い選別に次ぐ選別を受けて生き残っている個体が今残っている個体なわけです。多分メンテナンスコストとチューニングコストは年間20~30万と考えても軽く500万くらいかかっているはずです。また、30年も熟成されてきている車であり、自分とある程度価値観を同じくする人の車であればそれなりのファインチューニングがなされているはずです。単純比較するのも中々酷な話です。

ただ、サーキットアタックのタイムを比較すると興味深いのも事実です。筑波サーキットを例に取ると、ビートは当時1分21秒30S660は1分18秒325であり、軽自動車枠の限界を感じます。筑波サーキットは大きなレイアウト変更が行われていない為、概ね同じサーキットであると仮定して比較出来そうです。車重が70kg増加しているにも関わらずタイムアップを果たしているという見方も出来ますし、トルクがほぼ倍になっているにも関わらず3秒しか速くならなかったという見方も出来ます。ただ、筑波サーキットはパワーサーキットなので64馬力の呪縛から抜け出せてなさそうです。

正直、ビートとの比較は時代もモノも違うので何とも言えないのですが、S660が粗大ゴミだったらビートは産業廃棄物じゃないかと。どうでも良い情報ですが、BEATは新車販売価格が約140万(1991年当時)であり、S660は230万(2015年発売)でした。助手席を小さく設計したり、ノンターボだったり、BEATのほうがよっぽどダメだと思うんですよね。というか、BEATのほうがアクセルオフの感覚が自然なのは自然吸気エンジンだからです。ターボ車は絶対にすぐ回転は落ちません。パワーアップさせたら些細なポイントは気にならなくなるからとりあえずECU書き換えてこい。

⑤設計がおかしい
FF用パワートレインを使ってミッドシップにしてるから、エンジンのマウント位置がおかしいとか、基本設計がおかしいという話です。確かに前述したようにドアヒンジなどの自動車としては基本的な部分が疎かにされている部分もあり、確かに変な設計になっているように感じます。ただ、設計のおかしくない工業製品がこの世の中に存在するのかという点に関しては真剣に受け止めたほうが良いと思います。ほぼ予算無限の状態で作っていた一時期のF1ですら設計的な問題がある車が多かったのに、大量生産の市販車では無理でしょう。
かのマクラーレンF1ですらパワーに対してクラッチ容量が足りずクラッチが弱点になっていたり、ブガッティ・ヴェイロンですら全開走行したら20分でガソリンが無くなるわけです。「だってだって。」という反論は一通り聞きましたが、幼稚園児が横のガキの持っている派手なラジコンを見て騒いでるのと変わりません。偶々自分が感じた不満点がホンダの技術者の妥協点と一致しなかっただけで、実際に乗るとレーシングドライバーがあれこれ煮詰めたセッティングになっていることがよくわかる、手間のかかった車になっているポイントを見落としてはいけないと思います。大人の事情と他者の評価軸をもっと大切にしてあげて欲しい。

⑥総じて次元が低い
いやそりゃね、あーたね、ここ15年でポロGTIが260万から470万に値上がりして、ゴルフGTIが300万から600万弱に値上がりする時代の230万の軽自動車ですよ。軽自動車なんです。日本のガラパゴス規格の中で生まれた貧乏人の為の車です。貧乏人は黙ってタタ・ナノやG-Wizに乗っておけば良いという海外よりも恵まれた状況に居ることをまずは感謝するべきです。
これならタイムズレンタカーのほうがマシというのも理解は出来ますが、タイムズレンタカーはいつでもどんなタイミングでも自分が望むタイミングで乗れますか?徒歩1分の駐車場にありますか?壊れていませんか?異音はしませんか?タイヤの溝はありますか?そういった精神的なすり減りが無くなるのがマイカーです。もちろんその代わりにお財布が消耗しますが、マイカーのありがたさというのを再度確認するべきでしょう。
しかも、しかも、新車で購入したということは消耗品代はほぼタイヤのみで、修理にかかる金額がほぼゼロ、かつ故障に怯える必要が無いというのは本当に素晴らしいポイントです。一回アルファ・ロメオ買ってこればこの感覚はわかると思います。155Q4買おう。


結論として、国産の軽自動車という乗り物が向いていないというのがわかっただけでも個人的には良かったと思っています。車にある種のステータス性や具体的な出力特性、乗車可能人数などが見えたというのは本当に良い事だと思います。ただ、1~2年で2~3万km乗ってここまで値段が落ちないであろう車はこの価格帯では他に無いので、まずはこれを乗り込んで様々なパッチを当てていくことが本当に効果的だと思います。(もっと高い価格帯ならゲレンデとかランクルがありますね)
乗り続けるのであれば、コストを抑えてお安くスーパーカーで遊ぶというコンセプトを見失わないよう、季節外れの書き初めをすることをお勧めします。

3 件のコメント:

  1. ①そりゃあなたが常時舵角やスロットルが変化するような場当たり運転をしているので違いが分からないだけでは。

    ②S660に2時間以上乗ったのに回転数合わせられずに俺のクルマのミッションのシンクロガリガリしたの忘れてませんからね

    ③渋滞のゴミゴミしたところで乗ってませんよね?峠やきれいに流れている高速道路だけで公道上でのこのクルマの立ち位置がわかった気になるんですか?

    ④ビートが鉄屑なのは同意しますが、少なくともあの吹け上がりのエンジンと、設計時の志の高さがあるわけですよ。

    ⑤設計上のおかしなところが多すぎるという話をしているのに、突然、設計上のウィークポイントがある/ないの二者択一の話にすり替えるのは酷い雑な詭弁ですね。そもそもヴェイロン乗ったことあるんですか?

    ⑥この車の登場年の2015年で考えると、税金を抜きにすれば当時のポロの最低グレードと同じ価格帯なわけです。"ポロGTIが260万から470万"とおっしゃいますが、ADAS等の装備もぜんぜん違うはずです。年度も書かずに、装備に関する議論もなくそれっぽい数字を出すのは如何なものかと。そんなこと言ったら初代シビックは41.8万円です。

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    1. "そんなこと言ったら初代シビックは41.8万円です。"大好き

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