常日頃から、対面ではお話させてきて頂いていましたが、ECUアンロックに関する内容をざっくりとまとめていきましょう。
量が多いのと、法令名が面倒なので、ChatGPT全開な記事です。
近年の自動車では、ECUデータの読み出しおよび書き換えが急速に困難になっています。とりわけ2020年前後を境に、従来であればOBD経由で比較的容易にアクセスできたECUに対して、Bench Unlock、専用Unlock、Security Gateway認証、HSM、Secure Boot、署名付きファームウェアなどの概念を理解しなければならないケースが増加しています。
チューニング業界ではしばしば「2020年7月以降、EUのサイバーセキュリティ法によってECUが書き換えられなくなった」と説明されていますが、この理解は大筋の方向性としては正しい一方、法制度と技術実装の関係をかなり単純化しているのが現実です。
結論から述べれば、EUおよびUNECEの法規は、ECUチューニングそのものを直接禁止することを目的として制定されたわけではありません。むしろ、自動車メーカーに対して車両のサイバーセキュリティおよびソフトウェア更新を体系的に管理する責任を課した結果、第三者が自由にECUを書き換えられる設計を維持することがメーカーにとって制度上も技術上も不合理になった、という流れで理解する方が実態に近いでしょう。
その結果として、Security Gateway、HSM、Secure Boot、署名検証、オンライン認証、OTA整合性管理といった機構が徐々に標準化し、チューナー側から見れば「最近の車は極端に書き換えにくい」という状態が生じています。
従来のECUチューニングと現在の違い
従来のECUチューニングでは、車両のOBDポートからECUと直接、あるいは比較的単純な経路で通信し、ECU内部のFlash領域を読み出し、キャリブレーションデータを編集して再度書き戻すという構成が一般的でした。
もちろんSeed-Key、Checksum、Boot mode、Bench protocol、電源管理などの要素は存在していましたが、本質的には「ECU単体を攻略できればよい」という世界でした。対象ECUの通信プロトコルとメモリ構成を理解し、適切なツールを用意できれば、読み出しから編集、書き戻しまでを比較的独立した作業として完結させることができたわけです。
現在の車両では、この構造が大きく変化しています。OBDポートからの通信はSecurity Gatewayを経由し、診断セッションや書き込み操作ごとに権限管理が行われます。またECU内部でも、HSMによる暗号鍵管理、Secure Bootによる起動時の整合性検証、署名付きファームウェアの検証、書き換え履歴やソフトウェアバージョン管理などが組み込まれています。
さらに一部の車両では、オンライン認証を通じてメーカーのバックエンドサーバーと連携する仕組みも採用されています。したがって、現在のECUチューニングは単なるFlash書き換えではなく、車両全体のソフトウェア・セキュリティアーキテクチャの中に介入する作業へと性質を変えつつある、といえるでしょう。
2018年:Regulation (EU) 2018/858
この流れの制度的な出発点の一つが、2018年に制定されたRegulation (EU) 2018/858です。この規則はEUにおける車両型式認証および市場監視の枠組みを再構築するものであり、OBDやRepair and Maintenance Informationを含む車両情報の取り扱いを、より体系的な型式認証制度の中に位置づけたものです。
この時点では、ECUにSecure Bootを実装することや、第三者によるチューニングを禁止することが直接規定されたわけではありません。しかし、その後に導入されるサイバーセキュリティおよびソフトウェア更新規制を適用するための制度的な基盤が、この段階で整備されたと考えることができます。
つまり2018年は「ECUが突然硬くなった年」というよりも、その後の規制強化を受け止めるための土台が整えられた時期と見るのが適切でしょう。
2019年:Regulation (EU) 2019/2144
2019年には、General Safety Regulationとして知られるRegulation (EU) 2019/2144が制定されました。この規則は車両安全要件を大幅に強化し、後にUN R155およびUN R156を型式認証要件として取り込むための重要な法的枠組みとなります。
ここで重要なのは、自動車メーカーの設計変更は法規の強制適用日から始まるわけではないという点でしょう。ECUや車両E/Eアーキテクチャの開発には数年単位の時間を要するため、メーカーおよびサプライヤは規制の成立前後から将来の要求を見越して設計変更を進めています。
したがって、2020年前後に見られるECUセキュリティの急速な強化が、制度上の強制適用よりも先に発生していたとしても不自然ではありません。むしろ、自動車産業の開発サイクルを考えれば当然の流れでしょう。
2020年6月23日:UN R155およびUN R156の採択
2020年6月23日、UNECE WP.29においてUN Regulation No.155およびUN Regulation No.156が採択されました。UN R155は車両サイバーセキュリティおよびCyber Security Management Systemを、UN R156はソフトウェア更新およびSoftware Update Management Systemを対象としています。
UN R155の本質は、自動車メーカーに対して、車両に存在するサイバーリスクを体系的に特定し、それに対する対策を設計・実装・運用し、継続的に管理することを求める点にあります。UN R156では、車両のソフトウェア更新について、更新対象、更新手順、適合性、履歴および車両構成を適切に管理することが求められます。
日本でも2020年12月にはUN R155およびR156を国内の保安基準へ導入する法令改正が行われ、従来は自動運行装置搭載車を中心に適用されていたサイバーセキュリティおよびソフトウェアアップデートの基準を、それ以外の車両へも順次拡大する方針が示されています。
これらの規則は、第三者によるECUチューニングを名指しで禁止しているわけではありません。しかし、メーカーが「車両のサイバーリスクを適切に管理している」と型式認証当局に説明する以上、OBD経由で第三者が自由にDMEやECUを書き換えられる経路を無制限に残すことは、当然ながら説明しにくくなります。
したがって、法規制そのものがECUチューニングを禁止したというよりも、メーカーが型式認証上の責任を果たそうとした結果、自由なFlashアクセスを制限する方向へ技術実装が進んだ、と理解する方が自然でしょう。
日本の場合、「メーカー保証が切れるだけ」では終わらない
ここについては、当初僕自身も少し理解が甘かった部分があります。
日本では、UN R155およびR156が単なる新車型式認証時だけの話で終わっているわけではありません。自動車技術総合機構の審査事務規程には、現在「7-27、8-27 サイバーセキュリティシステム」と「7-27の2、8-27の2 プログラム等改変システム」が設けられており、これらは新規検査だけではなく、継続検査や構造等変更検査を含む検査制度の中に明確に位置づけられています。
つまり、R155/R156適用車は、新車時に一度だけ基準を満たせばよいという考え方ではなく、使用過程においても当該システムが保安基準に適合する状態を維持していることが前提になります。
ここで関係してくるのがRxSWINです。RxSWINはRegulation X Software Identification Numberの略で、型式認証に関係するソフトウェア構成を識別・管理するための番号です。単なるECUのSoftware Versionとは意味合いが異なり、「この型式認証に関係する電子制御システムは、どのソフトウェア構成で成立しているのか」を追跡するための仕組みと考えた方が分かりやすいでしょう。
さらに、この点については興味深い実務上の情報があります。2025年4月、姫路の自動車検査事務所に直接確認した方によれば、「CS対応車のソフトウェア書き換えについて、RxSWINに基づいていないものは全て違法改造に当たる」という回答を受けたとのことです。しかも、その場の担当者個人の見解ではなく、上位機関へ確認した上での回答だったとのことで、少なくとも近畿運輸局管内では、そのような運用解釈が共有されている可能性があります。
これはかなり重要な話です。
従来、ECUチューニングについては「ディーラー保証が切れる可能性がある」「排ガスや騒音等の保安基準に抵触しなければよい」といった理解が中心でした。しかしR155/R156適用世代では、それだけでは不十分である可能性があります。型式認証時に成立していたサイバーセキュリティシステムやソフトウェア構成管理そのものから外れる改変であれば、出力や排ガス値が一見問題なくても、別の保安基準項目で不適合と判断される余地があるわけです。
もちろん、この姫路での回答をそのまま全国一律の公式通達として扱うことはできません。現時点で公開されている国土交通省やNALTECの資料からは、「全てのCS対応車について、RxSWIN非準拠の書き換えは一律に違法改造である」と明記した文書までは確認できていません。
しかし一方で、審査事務規程上、サイバーセキュリティシステムとプログラム等改変システムが継続検査の審査対象に含まれていること自体は明確です。また、改造によって保安基準に適合しない状態にする行為は、道路運送車両法上の不正改造に該当します。
したがって、少なくとも実務上は「ECUを書き換えても車検ラインで警告灯が点かなければ問題ない」という従来の感覚は、R155/R156適用世代では通用しない可能性が高いと考えた方がよいでしょう。
さらに注意したいのは、継続検査の現場で毎回すべてのECUのFlash内容を読み出し、メーカーサーバー上の正規ソフトウェア構成と照合しているわけではない、という点です。そのため、実際に検査ラインを通過したことと、その改変内容が法的に適合していることは必ずしも同義ではありません。
車検で検出されなかったことと、合法であることは別問題です。
この辺りは、今後ECUチューニングを扱う側にとってかなり重要になると思います。R155/R156以降の車両では、性能やメーカー保証だけではなく、「そのソフトウェア改変自体が型式認証上許容される状態なのか」という観点まで考える必要が出てきたからです。2020年前後に現場で見え始めた変化
興味深いのは、法規制の正式な強制適用よりも前に、実際の車両側では明確な変化が現れていることです。特にBosch MG1/MD1系のECUでは、HSM、Secure Boot、暗号鍵管理、署名検証といった機構が一般化し、従来のBench Unlockだけでは対応できない世代が増えていきました。
この頃から、ECU単体の読み書き能力だけでなく、そのECUがどのセキュリティ世代に属するのかを確認することが、チューニング作業の前提条件になっていきます。
従来であれば「このECUはKESS3で読めるか」「AUTOTUNERでBench対応しているか」といったツール単位の判断で済むことが多かったものが、現在では「どのGatewayを経由しているか」「どのSecurity Levelが設定されているか」「Bootloader側で何が検証されているか」といった、もう一段深い理解を要求されるようになったわけです。
BMWにおける2020年6月という境界
この変化を非常に分かりやすく示す例が、BMWのBosch製DMEです。BMWのチューニングでは、ECUの製造年月が2020年6月以前か、それ以降かによってUnlock方法が大きく異なることが広く知られています。
ここで注意したいのは、基準となるのが車両の製造年月や登録年月ではなく、基本的にはECUそのものの製造時期であるという点です。2020年後半から2021年前半に製造・登録された車両では新旧ECUが混在する場合もあるため、実際にはECUラベルやHardware Numberを確認する必要があります。
2020年6月以前のDMEであれば、OBD経由で直接書き換えできない場合でも、ECUを車両から取り外してBench接続を行い、Security Unlockを実施した後に通常のチューニング工程へ移行できるケースが多く存在します。
一方、2020年6月以降に製造されたBosch DMEでは、従来型のBench Unlockでは対応できない世代が登場しました。BMWチューニングの世界で「06/2020+」という表記が独立した意味を持つようになったのは、このためです。
この時期とUN R155/R156の採択時期が近接しているため、「R155の影響で2020年6月からBMWのECUがロックされた」と理解したくなるところですが、ここは慎重に分けて考える必要があります。
UN R155の強制適用はもっと後であり、2020年6月のBMW/Bosch DME変更をR155の直接的な法的効果と断定することはできません。しかし、自動車メーカーとECUサプライヤが、今後のサイバーセキュリティ規制を織り込んだ設計へ移行していた時期と重なっていることは確かです。
したがって、2020年6月は法規の強制適用開始点というより、技術実装の転換点の一つとして捉える方が適切でしょう。
FEMTO Unlockという象徴的な存在
BMWの2020年6月以降のDMEを語る上で、FEMTO Unlockは非常に象徴的な存在です。
従来のBench Unlockでは対応できないBosch DMEに対して、FEMTOが専用のUnlock処理を行い、その後にチューニングツールからCalibration領域を書き換えられる状態にするという方法が広く普及しました。
この仕組み自体が、ECUチューニングの性質が変化したことをよく表しています。以前であれば、ECUの読み出し、編集、書き込みまでを一つのショップ内で完結させることが一般的でした。しかし2020年6月以降のBMWでは、ECUそのものを専門のUnlock業者へ送り、セキュリティ処理を施した上でチューニングするという分業が成立するようになりました。
ソフトウェア定義が進んだ最新車両をチューニングするために、ECUそのものを国際輸送する必要があるというのは、少し皮肉な構図でもあります。車両側はオンライン化・クラウド化している一方で、Unlock工程だけを見ると非常に物理的です。
FEMTOについては、「Bosch内部から暗号鍵を入手したのではないか」という噂が海外フォーラム等で長く語られています。しかし、これを裏付ける一次資料は確認されておらず、事実として扱うべき話ではありません。技術的には、Bootloaderの脆弱性、Fault Injection、Boot glitch、署名検証系の弱点、暗号実装上の問題など、何らかの解析手法によってUnlock方法を確立したと考える方が妥当でしょう。
現在のUnlock方法と、低侵襲という考え方
さらに最近では、FEMTO以外にもUnlockの選択肢が増えています。BMW系DMEについては、ベルギーのAUTOTUNERへECUを送付してUnlock処理を依頼する方法や、ECUを開封してBootGlitchを利用する方法などが現実的な選択肢になっています。
弊社でもBootGlitch自体は実施可能であり、MBfastと協力して何件か作業を行っています。その意味では「出来るか出来ないか」でいえば出来る側に入ります。
ただ、個人的にはチューニングという目的のためにECUを殻割りすることについては、メリットよりデメリットの方が大きいと考えています。
ECUを開封し、内部基板へアクセスし、ハンダ作業まで行えば、当然ECUそのものに物理的な介入が発生します。施工直後に正常動作していたとしても、長期的に見れば、熱サイクル、振動、湿気、筐体のシール性、ハンダ接合部への機械的ストレスなど、ECU起因のトラブルを引く可能性を完全に否定することはできません。
もちろん適切な設備と技術で施工すれば、そのリスクは十分低く抑えることができます。しかし「施工可能であること」と「積極的に施工すべきであること」は別問題です。
個人的には、この辺りは医療でいうMinimal Invasive、つまり低侵襲という考え方に近いものとして捉えています。正常に動いているECUに対して、目的達成に必要な介入は可能な限り小さくしたい。そのため、BootGlitchによって国内でUnlockできる場合であっても、条件が許すのであればECUをベルギーのAUTOTUNERへ送り、ECU内部への物理的介入を最小限に抑えた形でUnlockしてもらう方法を選びたいと考えています。
国際輸送の時間やコストは増えます。しかし、長期的な車両信頼性まで含めて考えれば、単純な施工時間の短さだけで判断すべきではないでしょう。
Unlock出来ることと、Unlockを勧めることは別
もう一点、比較的新しい車両をUnlockする場合には、メーカー側の診断システムとの関係も説明しておく必要があります。
近年の車両では、ECU Unlockや非純正ソフトウェアの導入によって、メーカー純正診断機やバックエンド側で改変に関係する情報や整合性異常が確認される可能性があります。メーカー、車種、ECU世代によって検出方法は異なりますが、「純正データに戻せば完全に何もなかった状態になる」と考えない方が安全でしょう。
さらに前述した通り、R155/R156適用世代ではこれは単にメーカー保証の話だけではありません。改変内容によって認証時に成立していたサイバーセキュリティ機能やソフトウェア構成管理が損なわれれば、保安基準適合性そのものの問題へ発展する可能性があります。
そのため、弊社としても最近のECU Unlockを無条件に積極推奨するつもりはありません。メーカー保証、ディーラー入庫、将来のソフトウェアアップデート、継続検査、売却時の扱いなどを含めて、純正状態から外れることによるリスクを理解した上で判断してもらう必要があります。
一方で、それらのリスクを理解した上で「それでもこの車をチューニングしたい」ということであれば、もちろん話は別です。技術的に対応可能な範囲であれば、こちらとしても積極的に手を出していくことができます。
つまり、現在のECUチューニングでは「Unlock出来るか」という技術的な問いと、「その車両をUnlockすることが妥当か」という判断を分けて考える必要があります。
個人的には、最新車両になるほど「何が出来るか」以上に「どこまで触るべきか」の方が重要になってきているように感じています。
Virtual Readという考え方
近年のECUチューニングでは、読み出し方法にも変化が生じています。その代表例がVirtual Readです。
従来のReadは、ECU内部のFlashメモリから実際のデータを吸い出すことを意味していました。一方、Virtual Readでは、ECUからHardware NumberやSoftware Numberなどの識別情報を取得し、それに対応する純正ファイルをツールベンダー側のデータベースから取得します。
したがって、表示上は「Read」となっていても、実際には実車ECUのFlash全領域を吸い出しているわけではありません。
この仕組みは、新しいECUセキュリティとの相性が良いものです。読み出し方向のセキュリティを突破する必要がなく、既知の純正ファイルを取得できればCalibration作業に必要なデータを用意できます。
ただし当然ながら、「データを入手できること」と「そのECUへ書き戻せること」は別問題です。最近のECUでは、むしろ後者の方が本質的な問題になっているといえるでしょう。
2021年:UN R155/R156の発効とISO/SAE 21434
2021年にはUN R155およびR156が正式に発効し、同年にはISO/SAE 21434も発行されました。
ISO/SAE 21434は、自動車のサイバーセキュリティを企画、開発、生産、運用、保守にわたって管理するための開発工程規格です。ここから、ECU単体の防御ではなく、車両のライフサイクル全体でサイバーセキュリティを考えるという思想がより明確になりました。
ECUの暗号化やSecure Bootは、その一部分に過ぎません。車両通信、診断経路、OTA、バックエンドサーバー、サプライヤ管理まで含めて一つのセキュリティシステムとして扱われるため、チューニング側も単一ECUのFlash領域だけを見て作業することが難しくなっていきます。
2022年以降:新型車への本格適用
日本でも国土交通省は、無線によるソフトウェアアップデートに対応する車両について、新型車では2022年7月、継続生産車では2024年7月を基準としてR155/R156関連要件を段階的に適用する方針を示していました。一方、無線更新に対応しない車両については適用時期を後ろへずらす段階導入が採られています。したがって、「2024年から全ての車が一律」というよりも、車両仕様に応じて段階的に適用が拡大していると理解する方が正確です。
この頃からSecurity Gateway、HSM、Secure Boot、Signed Firmware、Secure Diagnostics、オンライン認証といった技術は、特定メーカーの特殊な実装ではなく、業界全体で標準的な構成要素になっていきます。
そのため、「ECUが読めるか、書けるか」という単純な問題ではなく、「どの認証層を通過する必要があるか」「どのソフトウェアが署名検証の対象か」「車両側でどの整合性確認が行われるか」を理解する必要があります。
チューニングツール側の対応リストに“OBD”と書かれているかどうかだけでは、車両側で何が起きているかを説明できない時代になった、ともいえるでしょう。
2023年:ISO 24089
2023年にはISO 24089が発行され、車両ソフトウェア更新工程そのものが国際規格として整理されました。
これはOTAを含むソフトウェア更新について、対象車両、更新内容、更新手順、整合性、構成管理などを体系化するものです。
従来のECUチューニングでは、書き換え後にエンジンが正常に始動し、意図した制御が行われれば、一連の作業はほぼ成立していました。しかし現在では、車両全体としてどのソフトウェア状態にあるかが管理対象となります。
そのため、単一ECUの書き換えが成功しても、OTA更新、車両構成管理、他ECUとの整合性確認などによって問題が発生する可能性があります。ECU単体だけを見て正常であっても、車両システム全体では「想定外のソフトウェア構成」と判断される可能性があるわけです。
ECUチューニングは終わるのか
ここまで書くと、今後のECUチューニングは不可能になるのではないか、と考えたくなります。しかし、実際には必ずしもそうではありません。
現在でもBench Unlock、Boot Unlock、専用Unlockサービス、Gateway認証、Calibration-only Flashなど、車両側のセキュリティ構造に応じた手法が次々と開発されています。
一度突破口が見つかれば、ツールベンダーや解析業者が追従し、やがて特別だった手法が一般化していくという流れは、これまでのECUチューニングでも何度も繰り返されてきました。一方でメーカー側も次の世代で対策を強化します。この関係は今後も続くでしょう。
したがって、ECUチューニングが終わるというよりは、要求される知識の範囲が広がっていると考える方が適切です。以前はマップ構造や燃料、点火、トルク制御を理解すればよかったものが、現在ではそれに加えてGateway、認証、Secure Boot、Bootloader、暗号鍵管理、OTA、そして型式認証との関係まで理解する必要が生じています。
結論
近年のECU書き換えが困難になった理由を、「2020年7月以降のEUサイバーセキュリティ法」とだけ説明するのは不十分です。
実際には、2018年のRegulation (EU) 2018/858、2019年のRegulation (EU) 2019/2144、2020年のUN R155/R156採択、2021年の発効およびISO/SAE 21434、その後の各国における段階的な型式認証・継続生産車への適用、そしてISO 24089という連続した流れの中で、車両のソフトウェアとサイバーセキュリティが型式認証レベルで管理されるようになりました。
その結果、メーカーはECU単体のセキュリティを強化するだけではなく、車両全体をSecurity Gateway、HSM、Secure Boot、署名付きファームウェア、OTA、オンライン認証によって管理する方向へ進んでいます。
BMWの2020年6月以降のBosch DMEとFEMTO Unlockは、この変化を非常に分かりやすく示す実例でしょう。法規制そのものが直接BMWのDMEをロックしたわけではありませんが、法規制が求める方向性と、メーカー・サプライヤ側の実装の変化が同じ時期に進行していたことは間違いありません。
そして日本では、さらに一歩踏み込んで考える必要があります。R155/R156適用車については、サイバーセキュリティシステムやプログラム等改変システムが継続検査を含む審査事務規程の中に位置づけられており、改変によって認証時の適合状態を損なえば、それは単なるメーカー保証やディーラー入庫の問題ではなく、保安基準適合性の問題にもなり得ます。
したがって現在では、単に「Unlock出来るかどうか」だけでなく、どの方法でUnlockするのか、ECUへどの程度物理的介入を行うのか、メーカー診断上どのような痕跡が残る可能性があるのか、そして改変後も車両として要求される適合状態を維持できるのかまで考える必要があります。
個人的には、この辺りはチューニングの性能とは別軸の問題だと考えています。性能を上げること自体は出来る。しかし、そのために車両の長期信頼性、メーカーサポート、将来のアップデート性、そして法規上の適合性をどこまで動かすのかは、別途判断しなければなりません。
現在のECUチューニングでは、「何が出来るか」以上に「どこまでやるべきか」を考える必要がある。これが、昔のECUチューニングとの一番大きな違いなのかもしれません。
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