2022年4月12日火曜日

官能的なシングルターボV6;アウディS5カブリオレ(F5)

 頻繁に運転させて貰う機会があるので備忘録として。
フォルクスワーゲンとはやはり全然造りが違いますね。

低回転から最大トルクが脳汁と共に漏れまくるミラーサイクルのエンジンが載ったコンパクトGTカーです。オープンモデル専用のマフラーから澄んだ綺麗な音を出す官能性もあります。この車は本当に珍しいようで、ネット上にレビューや感想が載っていないので書いてみました。



この車の特性は諸元表を見ると非常にわかりやすいので、まずはスペックを見ていきましょう。

ボディサイズ 4705×1845×1375mm
車重 1890kg
トランスミッション トルクコンバーター式8AT

エンジン型式 CWG
最高出力 354ps(260kW)/5400~6400rpm
最大トルク 51.0kg・m(500N・m)/1370~4500rpm
V型6気筒DOHC24バルブICターボ
総排気量 2994cc
内径×行程 84.5mm×89.0mm
圧縮比 11.2

仕様としてはOP全部載せ。フルレザー+B&Oスピーカーシステム+スポーツデフという組み合わせです。

どうやら前モデルから比較すると
・全長を47mm延長した4673mmにすることで、リアニースペースを18mm拡大
・ねじり剛性40%向上
・車重を約40kg軽量化
・ラゲッジ容量を60L拡大し380Lに
・防音性能の高いファブリックルーフは50km/hまで開閉可能。開くのに15秒、閉めるのに18秒
・19スピーカーBang & Olufsen製3Dサウンドシステム、アウディ バーチャルコクピットを採用
・サイドエアバッグ、ポップアップ式ロールオーバーバー、運転席と助手席のシートベルトにオープン時の会話を補助するマイクを標準装備
と、デコレーションケーキ感が結構増しているようです。


僕の記憶が正しければ、S4/S5はCWG型のエンジン(3Lミラーサイクル)を搭載した最もコンパクトなモデルです。このエンジンはQ8などにも掲載されていますが、個人的にはRS4/RS5の搭載しているDEC型のエンジンよりも優れた所が幾つかあると思っています。


DEC型のエンジンはこのCWG型のエンジンの発展形だという位置づけで、ストロークを89mmから86mmに変更して排気量を2994ccから2893ccへ約100cc落としつつ、ミラーサイクルとアトキンソンサイクルを切り替えられるカムを搭載することでミラーサイクルの低燃費と低回転域のトルクとアトキンソンサイクルの高回転域でのパワーを両立させている非常にレベルの高いエンジンです。実際、450ps(331kW)/5700~6700rpm+最大トルク 61.2kg・m(600N・m)/1900~5000rpmという数字は伊達では無く、CWG型のエンジンよりも明らかに高回転域のパワーが出ており、高速域での全開加速は確かに全く違った表情を見せてくれます。またDEC型はホットV形式のツインターボであり、CWG型よりもツキが良いのは事実です。出力グラフで見ると瞬間的にトルクが立ち上がるCWG型と立ち上がりは遅いけれどもピークがもっと高いDEC型と1000回転~2000回転のトルクの出方が違うのがハッキリわかります。


なぜこのような変なエンジンが設定されているかというと、元々AudiのSシリーズは本国においてはディーゼルモデルが中心になっているからでしょう。実際に本国ラインナップを見てみるとディーゼルモデルのSがラインナップにあり、ガソリンモデルはディーゼルモデルが売れない国用の救済措置という立ち位置でもあるようです。だからディーゼルエンジンのような特性のミラーサイクルエンジンでスポーツグレードを作っているわけです。

とはいえ
①シングルターボのエンジンのほうが排気音が官能的になること
②カムプロファイルの切り替え機構は意外と故障の原因になること
③CWG型のほうがDEC型よりも燃費が良い
という3点から個人的にはCWG型を選ぶメリットも大きいと感じています。


また、搭載されているショックアブソーバーが違い、RS4/RS5はダイナミックライドコントロール(DRC)を搭載しており、車体の対角線位置にあるショックアブソーバーを油圧回路で互いに連結してピッチング、ローリングをリアルタイムにコントロールし姿勢変化が少ないのをセールスポイントにしています。S4/S5はダンピングコントロールしか搭載されていない為、ある程度の姿勢変化があり素直な挙動を示します。何でも卒なくこなしてしまうゴリゴリの電子制御スポーツカーがRS4/RS5であり、ノスタルジックな空気が多少あるのがS4/S5です。ブレーキでフロントに荷重をガッツリかけた所からターンインしていった時の鼻の入り方はS4/S5のほうが古典的スポーツカーの動きになっており、適当にハンドルを切ってもブレーキをつまんで気持ち悪いほど曲がるRS4/RS5よりも素直なハンドリングになっています。日本仕様車は海外ではOP設定になっているスポーツデファレンシャルが標準装備になっていますが、LSD効果は非常に高く、自然なフィーリングでコーナーを曲がっていくことが出来ます。


ただ、
④S4/S5とRS4/RS5の価格差は実質500~600万
*S4/S5には標準装備でRS4/RS5ではOPになっている装備もある(e.g.内装カーボンパネルetc)
⑤RS4/RS5は20インチでタイヤ代が高い(S4/S5は19インチ)
⑥同様にエンジン周りのパーツコストがS4/S5のほうが安い
など、長期保有or中古購入で乗り潰すのであればS4/S5はコスト的にかなり優秀だと思っています。



そして、海外でもよく言われているのが、”本当にRS4/RS5は必要か?”という話になります。


先代RS4が4.2L自然吸気エンジン、S4が3Lスーパーチャージャーエンジンだった時から議論されていましたが、S4/S5のコンピューターを書き換えると丁度450馬力くらいの数字になり、ノーマルのRS4/RS5と近しいエンジンスペックとなります。
更に、魔法アイテムDRCです。初代RS6から搭載されているテクノロジーではありますが、修理に恐ろしいほどお金がかかるだけでなく、そもそも修理しても修理しても直りきらないという話があったのも頭の片隅に入れておくべきかもしれません。
*今回調べていて気が付いたのですが、歴代RS4のエンジンは全てS4のエンジンのハイチューン版であり、基本構造は同一なまま素材の改変でより高回転型にしているようです。現行はショートストロークになっていますが、やはり基本骨格は同じです。いずれもウェットサンプなので大差無いというのがこういった議論の根底にあるようです。
*歴代RSモデルでドライサンプエンジンを搭載していたのは第2世代RS6(4F/C6系と呼ばれるV10 5.0Lツインターボモデル)だけです。RSとはちょっと違う括りにはなりますが、R8もV8/V10共に全てドライサンプエンジンになっています。


実際、S5を普段使いにしてみると、都内の移動(首都高+下道)では非常にバランス良く、また快適に移動することも出来ており、RS系のスパルタンさを考えると実はS系が正解なのかもしれない。というのが一つの結論でもあります。

スピードリミッターは250km/hでかかります。カブリオレの車重と空気抵抗の悪さもあるのであまり最高速狙いの車ではありません。220km/hまでは速いのですが、そこからはミラーサイクル感を感じる苦しさがあります。が、攻め攻めのハイスピードレンジ感では無く、だらーっと緊張すること無く走ることが出来るハイスピードレンジ巡航が出来る為、これはこれでアリだな。という結論に至りました。

足回りのセッティングはどちらかというとメルツェデス寄りでしょうか。フロントに荷重をかけ、アクセルでコントロールしてやると非常に良く曲がります。荷重移動をサボった時はメルツェデスよりも鼻先が入り、メルツェデスよりも回頭性は良く感じます。電子制御で相当ブレーキつまんでいるのが全く気にならないのが本当に凄い。高速域での安定性に定評のあるメルツェデスですが、実際は常時駆動のクワトロシステムを搭載しているアウディの足元に及びません。とはいえ、最近のアウディは低燃費+ドライバーエイドとしてFF駆動がベース+センターデフを排していることもあり、直進安定性については微妙に劣化しているのが事実かもしれません。このF5型のアウディS5がRSを除けば正統な(フル機械式)クワトロシステムを搭載した最後のモデルと言える為、この駆動システムに金を払うのもアリだと思います。



[追記]
1つだけ気になる点を挙げるとすればボディ剛性の低さです。先代モデルと比べると40%の剛性向上、ベントレーのオープンモデルと同じ3層構造になっている幌を搭載と期待出来、事実オープンモデルとしては驚異的な静音性を誇ります。が、立体駐車場のスロープに突入した時や段差を乗り越える時といった1つのホイールから荷重が抜ける時にきしみ音が聞こえるほどボディが変形するのがわかります。また、高速でスラロームしていくとオープン/クローズドの状態を問わず明確にボディが捻れる感覚が伝わってくる為、ハコ感があるクローズドモデルに乗り慣れている人は違和感を感じるかもしれません。連続した非常に派手な動きは出来ませんが、そういうハードコアな動きを極稀に楽しむ程度であれば全く問題無いとも言えます。
ちなみに、箱根で踏んだらボディ剛性云々よりもブレーキが先にタレました。


[追記その2]
タイヤがパンクしてしまった為、35000km時点でタイヤをコンチネンタルのスポーツコンタクト5からミシュランのPS4sに変更しました。サイドウォールが柔らかくなった為、初期応答は明らかに悪くなりましたが、乗り心地とロードノイズの静かさとウェットドライ問わないグリップレベルが非常に高く、交換して正解でした。また、燃費が2km/Lほど向上したのもかなりの驚きでした。

[その後]
最終型TTRSに乗り換えました。

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