2023年2月28日火曜日

明言されていない幻の初代TTRS;Audi TT Coupé 3.2 quattro S-line Mk1 (8N) MY03

3.2クワトロがどう違うのか…という話に踏み込んでいる日本語記事は存在しません。
今回はそんな部分にも踏み込んで書いて行こうと思っています。
そしてようやく納車されました。これは天国の始まりなのか、地獄の始まりなのか…

とりあえずAudiAGの新車発表時が出してきた資料を見つつ説明していきましょう。
3.2 quattroはVR6を搭載しており、エアロキット(フロントバンパー+リアスポイラー)の形状が違う所はよく知られているポイントであり、既に記事にしています。このエアロキットはS lineとして1.8Tの限定車にも採用されたのですが、元々S-lineは3.2のみの設定でした。
機能とは関係ありませんが、フロントバンパー+リアディフューザーにハニカムパターンを採用しており、ハニカムパターン=スポーツモデルという図式をいち早く取り入れています。僕が調べた範囲だと、当時のA4&A6が最も早くS-lineという概念を導入しており、TT3.2qは2発目だったようです。現行車種はS-lineでは無く、S line表記に変更されています。
マフラーは1.8Lモデルとは違い、純正で音のチューニングが成された非常に凝った造りのマフラーが設定されています。負圧式のバルブが付いており、低回転と高回転ではバルブオープン/中間域ではバルブクローズドの状態になり、中間域のトルク向上と音質を両立させています。

また、足周りが1.8Lモデルとは別物になっています。スポーツサス+スポーツタイプのロールバー+改良されたサスペンションピボットベアリングに加え、フロントブレーキは外径334mm×32mm厚のフローティングローター(当時のRS4との共通部品)を採用しています。このブレーキローターはR32(golf4)と共通部品になっていますが、1ピースローターよりも圧倒的に軽く、増加したフロント重量を誤魔化す為の苦肉の策のようです。確かに2ピースローターの軽さはめちゃめちゃ効くので非常に納得出来る所ではあります。
更に、通常の思考回路なら対向型キャリパーを採用する所だと思いますが、Ate製の大型片押しキャリパーを採用しています。もちろんコストカットもあると思いますが、多分BMWのM系と同じ発想でバネ下重量を軽くしたかったのでは無いかと思います。
クワトロスポーツは1.8L標準モデルと同じブレーキをキャリパーを赤く塗って搭載しており、そこまでやりきっていない感があります。(wikipediaには3.2Lモデルのブレーキを入れる予定だったということが書かれていますね。)
非常に興味深い事に、Mk2TT(8J)の3.2qはフロントが1ピースローターになっており、全く特別感の無い構造になっています。Mk2ではTTS&TTRSが設定されていましたが、TTSですら1ピースローター(外径340mm厚み30mm)であり、TTRSで初めて2ピースローター(外径370mm厚み32mm)が採用されています。ちなみにMk3TTSのブレーキシステムはMk2TTSからキャリーオーバーされているので1ピースローター(外径340mm厚み30mm)、Mk3TTRSは2ピースローター(外径370mm厚み34mm)と強化されているようです。Mk3TTRSのブレーキシステムはランボルギーニからの流用なのでこちらも高いわけですが、Mk1TT3.2qのブレーキはPCD100の旧規格な事もあり、2ピースローターを交換しようとすると片側16万(定価)かかるというのは完全に盲点だった事はまた別記事で書きたいと思っています。
【2023/11/27追記】どうやらMk2の3.2qはブレーキキャリパーがアルミ/スチール複合の1ピストンになっており、キャリパー重量が軽い為ブレーキローターを2ピースにしたようです。同様のキャリパーは現行ゴルフRでも使用されているので、よりコスト最適化が進んでいるのでは無いでしょうか。

そしてこれはあまり触れている記述が無いのですが、8NTTには既にある種のブレーキLSDが搭載されています。ESPはEBD付ABS(四輪独立ABS)+EDS(広義の意味でのブレーキLSD)+ASR(トラクションコントロール)の3本立てで機能しており、XDSのように速く走るシステムでは無く、悪路での走破性を上げる為のシステムになっています。エレクトロニックディファレンシャルロックという単語はVW/Audiが使い始めた単語のようです。
このシステムとハルデックスという組み合わせが悪条件でめちゃめちゃ効く。というのが8NTTの1つのセールスポイントでもあると思っていますが、ラリーユーズされた記録が殆ど無いというのは悲しいところです。



ここまで色々書いてきましたが、わかりやすくまとめるのであれば、ゴルフ4R32の特殊性と同じなので、対策部品やノウハウなども多々残っています。ただ、正規輸入されたゴルフ4R32は左ハンドルMTの3ドアモデルが300台、右ハンドルMTの5ドアモデルが200台とドナーを探すにはかなり厳しいのが現実です。なんならDSGモデルは多少並行輸入で入ってきているようですが、現物を見た事はありません。

日本に何台くらいMk1TT3.2qが入ってきているのかは自動車保有車両数統計書を見ないとわからないですが、全世界でクーペが10370台&ロードスターが4120台生産されたというデータがあります。約18万台生産されたうちの1万台と、非常に珍しい車だということを重ね重ねここに記録していきます。(参照:Production et ventes Audi TT MK1 (8N)

イギリスでは4年間で合計938台販売され、現存するのは600台弱だというデータがあります。
2003年:114台
2004年:510台
2005年:290台
2006年:24台
(参照:How many left

ちなみにクワトロスポーツは1168台しか生産されておらず、右ハンドルが800台、左ハンドルが365台だそう。イギリスと日本ではAudi TT quattro Sportという名前でしたが、他のヨーロッパ圏ではAudi TT Club Sportという名前だったようですね。日本には左ハンドルモデルが150台しか正規輸入されていませんが、イギリスでは900台売られており、トラックデイカーとしてモータースポーツ先進国で売ろうとしたように見えますね。RSモデルはエンジン縦置きであるべきだ論に潰された感じでしょうねぇ…



話を元に戻し、僕の購入した3.2qに戻りましょう。

買っちゃった。という記事にも既に書いた通り、20年落ちほぼワンオーナー個体です。本革内装が入っています。(BOSEは勘違いでした。)純正オーディオは1DINタイプのKENWOODナビに変えられていますが、HDDナビなので壊れまくるようです。純正デッキを探して純正戻しをしたい所です。

また、当時選べたOPは4つであり
・オプションカラー(パールエフェクト)
・オプションカラー(パパイヤオレンジ)
・本革内装(ファインナッパ)
* Full black extended leather interior incl. seats, gear knob, knee bolsters and steering wheel
*ロードスターのみに設定されているモカシンレザーOPは海外ではBaseball Gloveと言われているようです。
・BOSEサウンドシステム(9スピーカー)
となっています。
他にもAudiExclusiveで9スポークスタイルアルミホイールとクロススポークスタイルアルミホイール(いずれも8J×18 ET33、3.2q純正はRONAL製7.5J×18 ET32)が設定されていたようです。9スポークはクワトロスポーツに設定されていたので見たことがありますが、クロススポークは現物を見たことがありません。

途中、色が追加されたり削除されたりという定番の流れはありますが、中古市場を見ていると本革内装OPが選択されている個体は殆ど見当たりません。当時のOP価格がわかる資料が手元に無いのでわからないのですが、定価535万円+20万円前後だったのでは無いでしょうか?それにKENWOODナビ+取り付けキットで30万くらい?結構良い値段になっていたはずです。

色は日本語ではシルバーレイクメタリック、Silbersee-Lichtsilber Metallic(LY7W)というのが英語表記なようです。Silberseeというのはドイツ ニーダーザクセン州ハノーファーランゲンハーゲン市にある湖の名前のようです。引き込まれるようなシルバーって意味なんですかね?しらんけど。
Audiの色は色+地名+特性を表しているので語源などがメーカーから公表されていない為、よくわからんというのがけしからんポイントだと個人的には思っています。

シートはレカロのLXベースであり、電動では無いので1脚22.5kgしか無いようです。この時代の本革は本物のアニリンレザーなので本革内装(ファインナッパ)というOPは非常に価値のあるOPだと思っています。また、この当時のシートは高さ調整がガスダンパーだったんですね。知りませんでした。


Mk1TT3.2qは車重1550kgあり、同世代のゴルフR32が4ドアMTモデルだと1510kg、3ドアMTモデルだと1460kgだった事を考えるとかなり重量級であるというのがConsな気がします。DQ250はFF用が94kg、ハルデックス用が109kgというデータがあり、ざっくり20kgほどMTより重そうです。ゴルフ4GTIのトルコンATは50kg重くなっているようです。色々差し引いてもゴルフ4と比べると10~30kgほど重く、この差は剛性の差に現れてきそうです。初代TTは鋼鉄ボディだから重い。ということですね。内装パーツはアルミ削り出し部品(バングアンドオルフセン製)を採用していますが、車重を大きく軽量化するものでは無さそうです。

Mk1 3.2qの軸重は前軸:後軸=940kg:610kgで前後重量比は約60.6:39.4と、実は巷で言われているほど致命的に前後バランスが悪いわけでは無い気がします。前後バランスだけ見るのであれば、Mk3も前軸:後軸=910kg:580kgで前後重量比は61:39なわけです。ブレーキ制御でゴリゴリ曲げていくMk3は反則なわけですが、初代3.2クワトロのバランスが極端に悪いわけでは無いということをここに記しておきます。この比はアウディが考えるFFベースの車を矢のようにまっすぐ走らせる為の黄金比なのかもしれません。
【2023/11/27追記】Mk3TTRSと比較すると0.1~0.2KPa高めの空気圧セッティングが決まります。やはり車重を感じますね。


と、様々な御託を書き連ねてきましたが、山梨のお店から東京まで中央道で帰ってくる間に感じたフィーリングを纏めておきます。

まず、異様にヤレていないということが驚きでした。足回りも生きてる、ダンパーも生きてる、強いて言うならブレーキが怪しい。ブレーキがかなり深いので幾つか固着している部分がありそうです。ここに関しては注視しないとダメだと思います。
とりあえずふわわkm/hくらいまでは試してみましたが、リフトがエグいですね。自分がこれまで踏んだ事がある車の中では最も空気抵抗とリフトを感じます。ぬうわkm/hを超えるとハンドルが明確に軽くなり、ぬゆわkm/hでビビリミッターがかかります。新車発売当時、この車を200オーバーで踏んで死んでしまったラリードライバーが居たそうですが、正直僕はその領域に行く事は出来ないな…と感じました。

ステアリングの重さと切れ角の少なさ、DSGの制御の粗さは最近の車とは全く違いますね。GC8の時も書いた記憶がありますが、運転がスポーツだということを再認識させてくれる車です。

VR6は面白いエンジンですね。このエンジンがスポーツタイプのエンジンなのかどうかはwからないのですが、2段ロケットのようにエンジンパワーが出てきます。4000回転以下と以上で音が変わり、これがカムが切り替わるという話なのでしょうか。ターボ感のある回り方で割と好みです。音質も好みですが、音量が圧倒的に足りていないですね。最近のRS系の音に慣れてしまった今、生半可な音量では満足出来ないという残念な病気を発症してしまった気がします。

総じて言うなら、3世代くらい前のナンチャッテスポーツカーですね。もう一台のTTRSが1世代前のハイパーナンチャッテスポーツカーだとすると、更に2世代くらい前なわけです。面白いですよコレは。
現行モデルで考えると、立ち位置的にはSモデルとRSモデルの間に居る感じですね。マフラーを変えたらRSモデルっぽくなるかな?と思っていますが、どうなるんでしょうね。一度ディーラーで相談してみたい所です。
【2023/11/27追記】初代におけるTTSは220馬力仕様だったようです。つまり1.8T+ビッグタービンのK04仕様がSモデル、通常のK03仕様が通常モデルという立ち位置だったわけです。何故かTTS表記が消えて225馬力モデルが出ましたが、この命名規則から言うのであれば250馬力の3.2qは明確にRSモデル未満Sモデル以上という位置づけになっていると考えられます。サービスキャンペーンが無ければRSモデルとして出ていたような気がしますね。

何を直し、何を見て見ぬふりをするか…と、方針をどう設定するか…は非常に重要なポイントになってくると思います。この車は間違い無く手放すタイミングがある程度見えてしまっているので、次のオーナーに繋ぐ意識を持ってメンテナンスをしていきたい所です。

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