2023年11月20日月曜日

最後の直列5気筒、EA855&EA855evoの話

Dr. Wolfgang Hatz主導の元作られたEA855、その改良版のEA855evoの話です。
Dr. Wolfgang Hatzについてはモーターファンイラストレーティッドvol.42を読んでもらうのがわかりやすいかと思いますが、彼が関わったエンジンはBMW S14のL4(BMW E30 M3)、カリブラDTMのV6、フィアットのL4/5(Coupé Fiat)だと言われています。フェルディナンド・ピエヒ博士と仲が良かった為フィアットからアウディに引き抜かれたという逸話もあります。
その彼がV6ターボより軽量なエンジンを作るというコンセプトで北米ゴルフに搭載した自然吸気5気筒エンジンがEA855です。
そしてAudiSportsのシュテファン・ライル達が「面白くない???」と目をつけ、EA855をターボ化(TFSI化)したものがMk2 TTRSに搭載されたわけです。おおよそ180馬力をひねり出す自然吸気エンジンをベースにブロックをバーミキュラ鋳鉄で作り直し、強化コンロッドで鋳造アルミピストンをカチ回しナトリウム封入バルブから排気するという魔改造エンジンを作ったわけです。便宜的にこのエンジンをEA855'と区別しましょう。
過給圧はEA855'時は最初1.2bar(8JTTRS)からスタートし、1.25bar(8JTTRSplus)、EA855evoで1.35barとなっています。EA855evoは600馬力くらいまでは常用域になっているようで、KTMやドンカーブートに搭載されたものはそれくらいのパワーになっています。

EA855、EA855'、EA855evoは同じ形式を踏襲していますが、直列5気筒であること以外共通点がほぼ無い…と言っても過言ではありません。NAのEA855はスルーして、EA855'とEA855evoだけに絞ったとしても結構な差があります。EA855'はバーミキュラ鋳鉄のブロックでEA855evoは新設計のRotacastアルミブロックになっています。EA855evoの方が26kg軽く157kgとなっています(EA855'は183kg)が、evoのアルミブロックの方がチューニング耐性が高く、ECUチューンのコスパも良くなっています。データを並べるとわかりやすいですね。1700~7000rpmまで谷無く綺麗に回るのはEA855evoですね。

EA855'
340馬力@5500~6700rpm/45.9@1650~5400rpm(1.20bar)
360馬力@5500~6700rpm/47.4kgm@1650~5400rpm(1.25bar)
EA855evo
400馬力@5850~7000rpm、48.9kgm@1700~5850rpm(1.35bar)

他にも、EA855evoはMPI(マルチポイントインジェクション)+FSI(直噴)の組み合わせとなっていたり、プラズマコーティングによるエンジンの内部抵抗の引き下げ、冷却システムの完全なリファインが行われています。オイルパンもマグネシウム複合構造になっています。レブも7200rpmに引き上げられています。
詳細を列挙すると…、クランクシャフトは1.5kg軽量化されているようです。AVS(Audiバルブリフトシステム)もEA855'比でより賢くなっています。オイル量も500mL増やし、オイルポンプもより強化、ドライサンプと同等のオイル吐出量が確保されているようです。上述の通り、インジェクターはツインインジェクターを採用しておりMPI用の低圧+直噴用の高圧経路がそれぞれ用意されています。

このようにエンジン単体の差も大きいのですが、組み合わされるDSGも実際に購入する場合は重要なファクターになってきます。EA855'はDQ250、EA855evoはDQ500になっており、380Nmが限界のDQ250と600Nmが限界のDQ500の差は物凄く大きくなっています。どちらかというとEA855'(Mk2)はMTで振り回せるというのがポイントだと個人的には思っています。パワーや音など様々な評価要素がありますが、MTが選べる事以外全ての点においてEA855evoの方が優れたエンジンだと言えるでしょう。


実際に運用していて気がついた難点は
①オイル食い(約200cc/1000km)+オイル残量によって変動するフィーリング
②冷却水の蒸発(約200cc/6ヶ月)
の2点です。

オイル量は常に上限にしておいた方がレスポンスもパワー感も良く、その差がかなり顕著なエンジンです。100mLくらい減るとレスポンスが悪くなった感覚があります。
また、オイル交換頻度は公式には15000kmもしくは1年おきと設定されていますが、VW 504 00は明確に7000km前後でフィーリングが落ちてくる為、適宜オイルを継ぎ足しながら7500kmでオイル交換するスパンが良さそうな感覚を得ています。公式資料によるとVW 502 00も使える事になっていますが、8S後期型にはGPFフィルターがついている為VW 504 00を使った方が良いはずです。EA855evoは7L入り、6.5Lしか入らないEA855'と比較するとオイル代が少々高くなります。
*ちなみに3.2L VR6のオイル量は5.5L、EA888など2Lのモデル(8S TTS)は4.5Lです。330馬力でオイル量4.5Lはちょっと厳しいんじゃないかな…というのは頭の片隅に入れておいても良いと思われます。


冷却水が思っていたよりもドラスティックに減るというのも結構な驚きでした。一般的な乗用車だと年間0.3Lほど蒸発すると言われています。発熱量の多いエンジンは水分の蒸発量も多く、TTRSは400~500mL前後蒸発するように感じています。

普通に乗っていても3~6ヶ月おきに何らかの手を入れる必要はありますが、このエンジンにしか無い味というのが非常に明確で面白いエンジンです。


ちなみにDr. Wolfgang Hatzはその後2011年~2016年にポルシェの役員となりましたが、ディーゼルゲートで2017年に投獄されました。ハハハ
2023年現在も裁判は続いているようです。

参考サイト

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